死神少年
「か、母さん!?」
ドアの前に立っていたのは母さんだった。
「音穏、あんた一人で何騒いでんの! 近所迷惑でしょーが!!」
「いや、これには訳が」
「いーから早く下行って、夕飯食べちゃいなさい。 ったく世話のやける子なんだから」
バンッと勢いよくドアを閉め、母さんは出ていった。階段をドスドスと下りる音がこちらまで聞こえる。
俺は振り返ってベットに座っているこの憎たらしい悪魔を睨みつけた。
全くこいつはとんだ疫病神だ。
「いーのかよ、早く行かないとまた戻ってくるぞ? あの鬼ババ」
確かに悪魔の言う通り、このままだと夕飯抜きに成り兼ねない。
部活帰りの俺にとってそれはきつい。 渋々、俺は部屋を出て下に向かう。
ご飯をほうり込むように口に入れ、いつもの半分の時間で夕飯を平らげると、階段を駆け上がり、大急ぎで部屋に向かう。
悪魔が部屋にいるのかと思うと気が気ではではなかった。
階段を駆け上がった勢いに体を任せ、自室のドアを勢いよく開ける。
当の悪魔はというと 勝手に人のベットに寝転がり、これまた勝手に本棚から引っ張り出した俺の漫画雑誌を呑気に読み耽っていた。
「お帰り」
「お帰りじゃない、何勝手に人の物を……」
言いかけて 俺は言葉をのみこんだ。 今はこいつを説教してる場合じゃない。
もっと重要な事を、こいつに尋ねるべき事が山ほどあるじゃないか。
「あんた一体何者なんだ? 何故俺に付きまとう? 目的は? つーか、なんで俺以外の人間にお前の姿が見えてないんだ」
まるでダムが撤回したように、言葉が水みたいに一気に溢れ出した。 正直自分でも半分何を言っているか分からない。
悪魔は雑誌を閉じると、こちらにその漆黒の瞳を向けた。
奴の真剣な瞳に少し緊迫感を感じたが、俺は怯む事なく奴の視線を受け止めた。
「俺は――。」
言いかけて、奴はまたニヤリと白い歯を覗かせる。先ほどの真剣な顔は面影すらない。
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「俺は死神だ。」