遊びじゃない

「……麻生さん、素直でピュアで可愛いところがいいって…。」

目を伏せたまま意を決したように唇を真一文字に結んでから、恐る恐る言葉を続ける。

「婚約してる人の…」


…ほら、やっぱり聞かなきゃよかった。

自分がどんな表情をしているのかなんて、ゆうの定まらない視線から安易に想像できてしまって。
何か言葉を発しなければと思うのに、取り繕おうと焦る頭の中は真っ暗で何も浮かんでこない。

諦めていたはずなのに、泣きそうになっている自分にも吐き気がするくらい嫌気がさしてきて、ごくりと唾を飲み込んでから「そう。」とだけ何とか搾り出して部屋に上がる階段に踵をかえす。

背後からは何か言いた気に足を踏み出す音が感じられたけれど、それを拒絶するように階段を駆け上がる。

彼氏でもなんでもない男はもちろん追いかけてくることもなくて、かなりホッとして扉を開けた途端、ドサッと鞄が肩からずり落ちた。


婚約者なんて…ちゃんとしたのがいるんじゃん。

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