遊びじゃない
「…少しはましか。」
いつもよりもベースメイクに時間を費やして、鏡に映る頼りない顔を見つめる。
そして、別にそれほど落ち込むことじゃない、と自分に言い聞かせる。
大して珍しいことじゃない。
彼女がいながら他の女と寝る男も、自分は本命じゃないのかもしれないと思いながら男と寝る女も。
ドラマでもありがちだし、もしかしたら同じ部署にだっているかもしれない。
そんな程度のことだと、鏡の中のサエナイ顔と頷き合ってから、いつもより早く家を出る。
昨日はそのまま寝ちゃったからあまり考えられなかったけど、麻生さんに婚約者って話、職場では全然知れわたってない。
まあでも、私も美織も噂話にそれほど感心があるわけじゃないからそうだったのかもしれないし、今さらだから気にしないでおこう。
それにしても…ゆうはなんで気付いてたんだろ。
私のほうからは絶対ボロは出てないと思うから、それは必然的に麻生さんがゆうに言ったってことで…それの意図も目的もわからない。
もしかして、私に付きまとわれたら迷惑だからゆうに言わせた、とかってこと……。
でも、メールだって電話だってしない私を鬱陶しいと思うなら、自分から連絡しなければいいわけで。
そんな回りくどいことを他人に頼むなんて、麻生さんがしそうに思えない。
結局会社に着くまでに何の結論も得られなかった私は、今度こそすっぱり忘れようと決めて回転ドアに足を踏み入れた。