遊びじゃない

整頓されて、女物の小物ひとつ見つからない麻生さんの匂いでいっぱいの部屋。


肩を持ってソファに座らされて、思わずこの前このソファで眠ってしまったことを思い出す。

「何か飲む?…って言っても大したものはないんだけどね。」

数週間連絡を取っていなかったことは気にもしてない様子で、苦笑しながら冷蔵庫に向かうその横顔を見ていたら、口をついて出た言葉。


「転勤するんですね」

多分、私は、コレを一番麻生さんの口から聞きたかったんだ。

人から聞くんじゃなくて、麻生さんから転勤する話を直接聞きたかった。
私について来いとか、この先どうするとか、そんな話にならないことくらいは予想できていたけど。
それでもこの人の口からその事実を聞きたかったのに。

「ん?言わなかったっけ?」

まるでなんでもない事のようにペットボトルを傾けて水を口に含む直前に吐き出された言葉。

「ペリエがいいかな?それともそのワインでも?」

私の隣の紙袋を指差しながらそう言う。


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