遊びじゃない
早歩きでエレベーターホールに向かい、他の人の列に紛れる。
扉が開いて少ししかスペースが空いていないそこに無理矢理気味に乗り込んで、俯いたままでも鼻孔に香る男っぽいフレグランス。
色んな人が乗り合わせたこの個室で、同じ香水の人なんていくらでもいるでしょうよ、って自分を落ち着かせようとするけれど、意思に反して早くなる鼓動に、視線を上げて確かめることができない。
このまま永遠に止まらないでほしいと思った瞬間には無情にもチンという簡素な音と共に扉が開いて、呆気なく押し出される体。
ぎゅうぎゅうに固められていた人の壁が眼前からいなくなった隙間からロビーのソファに座って愛おしそうにお腹を撫でる美織が視界の隅に映って、ほっとした気持ちで歩き出した私の体は、掴まれた右手首によってよろけそうになる。