遊びじゃない
かわいい、とか、綺麗だよ、とかの熱に浮かされた行為の最中に欲望と共に吐き出された甘い言葉を信じるほどウブでもないし。
「ごめん…なんか余計なこと聞いて。」
痛いところを衝かれた私の表情はとても複雑だったようで、申し訳なさそうに頭を掻きながら項垂れる。
正直なのか、空気が読めないのか…いや、きっとその両方だけれども、眉を下げて泣きそうになっている眼鏡の奥を認めると、責める気なんかなくなってしまう。
「別に謝ることじゃないし。あ~、じゃあ先行くね、お疲れっ。」
言いながら駆け出して、階段を下りる直前でチラリと振り返ると、やっぱりまだ仕事を残している男は、エレベーターの前で肩を落としたままこっちを見送っていた。
変に律儀な男に軽く手を振って、カツンカツンとヒールを響かせながら階段を駆け下りた。