新撰組のヒミツ 弐
どう出るかと身構えていたが、男は構えずに無造作に距離を詰めてきた。しかし、予測しづらい絶妙な足運びは手練のそれだ。


この男は、確かにとても強い。刀を交えるまでもなく、その才覚と踏んだ場数が知れる。


「……お互い無傷では済みません。ここは大人しく捕まっていただけませんか」


「戯言を」


「こちらとしては本気です、よ!」


不意を突く形で、光は珍しく自ら攻撃を仕掛けた。踏み込み、突きを繰り出す。


読んでいたように立て続けに躱されたならば、片手で刀身を地と並行にして横に斬りつけた。だが、やはりこれも空を切った。直ぐさま距離を詰めて両手で斬りつける。それでも、ひらりと躱される。


一陣の風が吹いたと思えば、光の喉元に白刃が迫っていた。


まずい──!


光は仰け反りながら間合いを取り直す。あまり男と距離を詰めすぎても今のようになる。苛立ちのせいで奪われていた冷静さを取り戻すべくゆっくりと呼吸を繰り返した。


すると、男は構えを緩めて薄く笑う。


「強いな、あいつが欲しがる訳だ」


その言葉は光の耳には届かない。


光は敵に突きを繰り出す。油断していたわけでは無いのだろうが、一瞬だけ動きが遅れた。完全には避けきれず、男の頬に走った赤い線から鮮血が散った。


それに動揺を見せた男の隙を逃さず、追い討ちを掛ける。


──乾いた音を立てて刀が床に落ちた。


「ぐっ、……」

「油断も隙もない……」


男はニヒルな笑みを浮かべ、頬を滑る血を無造作に拭った。


左肩を斬りつけられ、刀を取り落としたのは光の方だった。強敵だという認識のせいで、明らかな誘いを見抜けなかったのだ。


男は、傷を負って顔を歪める光に冷徹な一瞥をくれる。そして、今度は油断することなく光の眉間に切っ先を突きつけた。


絶体絶命というやつである。
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