新撰組のヒミツ 弐

「大人しくしろ」


(……私は)


光は唇を噛みしめた。


──ここで終わるわけにはいかない。
これから生きる道を見つけたのだから。


綺麗な戦い方にこだわっていては、この男には勝てないだろう。勝つ戦い方をしなければならない。


僅かでも前に動けば皮膚を刺すだろう切っ先を睨みつつ、光は密かに考えた。そして、左肩の傷口を抑え、俯いて力無く座り込んだ。


男は光の足元に転がっていた太刀を宮部がいる方へ蹴った。酷い侮辱じゃないか、と光は眉を寄せる。敵だとはいえ、侍の魂をよくも足蹴に出来るものだ。


「お前、立花の古い友人だそうだな」


「……友なものか」


光は男を睨みつけた。そもそも立花には友だとは思われていないだろう。しかし、男はそれに構わず言葉を続けた。


「それが何故敵対している。昔からお前たちは同じ長州一派だったのだろう?」


「な……お前、何を言って……私たちが、長州一派……だと!?」


昔から──?
その衝撃の言葉に光は痛みを忘れ、叫んだ。男の後ろにいる宮部も驚いたようで目を見開いていた。


『お前たち』。それは光と立花、もといあの雪の組織自体がそうだとでも言うのか。確かに色々な要人を手にかけていたが──。


昔のことだとはいえ、今は新撰組の一員であり、幕府に仕える身である。自分の隠している過去は、自分が考えていた以上にまずいものだったらしい。


(これは、隠し通さねばならないことだ。……それをこの男は知っていた。万が一、この男が新撰組に捕まり、私の過去が知られたら私は──。必ず必ず、必ずここで消さなければ……)


心が冷えていった。
明確な目的を持って人の命を刈り取ろうとしている光がいた。


新撰組の一員として、あの場所を奪われたくないと思った。
仲間から裏切り者と罵られたくないと思った。

なにより、彼に軽蔑されたくなかった。


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