新撰組のヒミツ 弐
男の視線が光から倒れている沖田に逸れた一瞬。光は密かに後ろ手に握っていたクナイを男の足の甲に思い切り突き立て、男を文字通り床に縫いとめる。
男は呻き声を押し殺した。
その間に光は素早く背後に回り込む。彼には光が消えたように映っただろう。
そして、鋭い気合の声と共に、一気に男の肩から腰にかけて斬った。
光がその手に持っていたのは太刀よりも短い脇差と短刀。肩は少しは痛むが生憎と光は痛みに慣らされている。
男は苦悶の叫びをあげ、うつ伏せに倒れこんだ。
光は素早く男を確認する。光が与えた傷は深い。今はまだ息はあるが、 じきに死ぬだろう。光は刀に伝う血を振るって落とすと、次なる敵、宮部に向き直った。
彼は顔色が悪く、表情が固かった。
「あの吉田が倒されるとは……」
まさか、という口ぶりであった。
これは初めて沖田と戦ったときも使った、我が師の流派と、彼が光に施した生きる為の手段と知恵。そして、雪という女に膝をついたときに得た経験によるものだ。
光の本来の戦い方は正々堂々とは言い難い。新撰組に身を置くうち、この戦い方は極力人の目には触れないようにしてきた。
速さを二段階に分けることで敵の目測を狂わせ、一気に死角に潜り込む。そして、長さの違う二振りの刀を使い、回避不可能の時間差攻撃を仕掛ける。
座り込んだのも、太刀を落としたのも、男を油断させ倒すための行動にすぎない。いわば、騙し討ちに近い。
「このような戦い方……」
それをにわかに理解した宮部は苦い顔をした。そんな反応も今はどうでも良い。
光は薄く微笑んで宮部に歩み寄った。
「……話を聞いていた貴方も消えてもらわねばなりませんね」
そっと言葉を紡ぐ。宮部の表情に恐怖が走ったのが見てとれた。
自分はそんなに怖い顔をしただろうか、と光は思った。しかし、今の光の顔を見て恐怖せぬ者はいないだろう。見る者によれば美しい死神を想像させる。