新撰組のヒミツ 弐
二階は制圧したと思ったかのだが、まだ上に敵がいてまた背後から襲ってくるかもしれない。
無意識に頰に汗が伝う。息も上がっていた。
ふうと一つ深呼吸をし、覚悟を決めて沖田を支える手に力を入れると、できるだけ上体を低くして一階を駆け抜ける。幸運にも敵に攻撃されることはなかった。
外に出ると、夜の涼しさが光の熱を奪っていく。光は池田屋の外に出ることができた。
その池田屋の前の道に、一人の男が背中を向けて立っているのを見て、光は身に染みるような安心感を覚えた。
「土方副長!」
その男ははっとしたようにこちらを振り向いた。
「井岡!無事だったか!……そっちは総司か?」
険しい顔をした土方に、これは返り血であること、斬られて倒れたわけではないことをざっと説明すると、彼は直ぐさま治療班を呼び、彼らに沖田を看るようにと告げた。
光は沖田と彼の刀を治療班に預けると、ふと土方の周りに多くの兵が集まっていることに気付いた。光は無言で土方に状況を問うと、彼は肩を竦めて彼らの方へ歩み寄った。
「──貴殿ら会津藩並びに他藩による助太刀は無用! 中は現在も混戦状態である! 我ら新撰組は隊服を目印に戦っており、今貴殿らが中に飛び込めば同士討ちを招くことになりかねない! 功を急ぎ、場を乱したい方だけ中に入られよ!」
土方は藩兵に強い語気で言い放った。藩兵たちにさっと動揺が走る。土方は、遅れてきた会津藩や他藩による手助けと銘打った手柄の略奪を防いでいるのだ。
果たして効果は絶大だった。
藩兵たちがお互いに視線を交わし合い大人しくなると、土方は一息ついて光に視線を移した。彼の表情が心配や呆れが入り混ざったような微妙なものになる。全身を濡らす血の所為だと光は確信したが、目を細めて白々しく笑った。
「何か?」
「……いや」
土方は表情を繕って首を横に振った。返り血と思われたのだろうか肩の傷には気付かれていないようだ。変に騒ぎ立てられ、ここで剥かれて治療されても困るので逆に好都合ではある。
いつもと変わらずに薄く笑う光に土方は何も気づかなかった。