call my name
部屋を飛び出して、自転車で急いで公園へと向かった。
生乾きの髪だったので、少し肌寒かったが、気にしてはいられない。
それにそこまで髪は長くないので、外に出ている間に少しは乾くと思っていた。
昨日は10分かかったが、今回は5分で着くことができた。
その日の夜は、月がとても綺麗だった。
時間が昨日よりも遅いため、屋台の電気も桜のライトアップの光は消えていて、道を歩くための街灯も少ししか点いていない。
満月の月明かりが桜と公園の入り口付近にある池を照らし出している。
風情のある風景だ。
昨日は気付かなかったが、この公園は丘を切り開いて作られたように見られ、月がその頂上に向かって道を作っているように思えた。
その頂上には、公園らしい遊具が設置されており、周りを桜が取り囲んでいる。
待ち合わせ場所がわからないため、吸い込まれるようにその道を辿って行った。
途中には昨日のような花見客の宴会の声が聞こえる。
昨日の感じを思い出すようで、若干嫌気がさす。
記憶をなくしたことより、ネックレスをなくしたことより、あの先輩の一言に。
いや、よくよく考えればそんな一言よりもネックレスをなくしかけたということが自分に対する自己嫌悪を助長させた。
頂上にも同じように花見客が大勢いた。
それらを避けるように奥の方にあるブランコの方へと足を進めた。
ブランコの周りはライトもなく、月明かりだけが綺麗に感じられた。
二つ並んでいる片方に腰を下ろす。
連絡は……たぶん向こうから来るだろう。
そう考えていた時だった。
「紗雪……さん?」
聞こえた声に頭を上げた。
同い年くらいの男子が目の前に立っていた。