call my name
「あ……はい」
「よかった。これ、落し物です」
月明かりの逆光で少し表情は見にくいけれど、その人は微笑んだ。
差し出されたネックレスは、確かにあたしのものだった。
受け取って、「ありがとう……。本当に助かりました」と頭を下げた。
手の中にあるネックレスを握りしめる。
「大切な物なんですね」
「……はい。本当にありがとうございました」
目線を下げたまま、あたしは頷く。
「よかったです。メールに気付いてくれて」
そう言った後、「また、大学で会ったらお願いします。それじゃ」と続けた。
それだけ言って、その人は足早に去って行った。
声を掛ける間もなかった。
大学で、ってことは同じ大学なのか……な?
とにかく、ネックレスが戻ってきてよかった。
一安心。
握りしめたままだったそのネックレスを身に着けた。
胸元に落ちた三日月と星のトップに手を当てた。
それを再び握りしめる。
女々しさしかないのだけれど、どうしても大切な物なんだ。
大切で、大切で、無くしたくない。
思い出すのは辛いけど、忘れはしない。
絶対に。
苦手だ。
時々無性に思い出してしまうこの感情が。
「……智也」
絞り出した声は、綺麗な夜空へと吸い込まれていった。