[短編] 昨日の僕は生きていた。
 僕は彼女の言う意味がよく分からなかった。
 きっと、今の僕はすごく変な顔をしているだろう。

 香織ちゃんは続けた。

「――本当に覚えてないの? 私達、別れたのよ」

「えっ……」

「雪彦が自殺した日っ、私から別れ話をしたじゃない!」

 別れた?
 僕と香織ちゃんが?

 何も知らない。覚えていない。

「別れたって……?」

 香織ちゃんは泣いていた。
 あの気丈な香織ちゃんが涙を流しているのを見たのは初めて。

 彼女の涙は次々と頬を伝わっていく。

「深い意味はなかったのよ……っ。ただヘタレなあんたにちょっと呆れてて、別れ話をしたの…!」

 僕は何も言えない。
 声帯を掴まれたように、声が出なかった。


「でも、まさか、雪彦が自殺するとは思わなくて……っ!」


 ――ああ、そうだ。
 僕は、自殺したんだ。

 香織ちゃんの泣き顔を見ていると、昨日の記憶が蘇る。

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