[短編] 昨日の僕は生きていた。
「ゴメン……雪彦を試すような事して……。怒ってるよね、そのせいで死んだんだもん」


「香織ちゃん……」

 怒れなかった。
 それよりも香織ちゃんが可哀想だ。

 これからも彼女は、僕を死なせたのは自分だと責任を感じて生きていくのだろう。


「じゃあ僕たち今は恋人同士じゃないんだ……独り身で死んだなんて、寂しいね」

「雪彦……っ」

「いいんだ。自殺なんかした僕がいけないんだから。香織ちゃんも言ったじゃん、死んでもヘタレなのねって」

 彼女を泣き止めさせたくてヘラッと笑ってみたけど、逆に僕まで目頭が熱くなってきてしまった。

 幽霊なのに泣くなんて……。

「これ、香織ちゃんが貰ってよ」

 僕が取り出したのは、今朝、僕の部屋で発見したクシャクシャの写真。

 僕と香織ちゃんが映っているものだ。

「これは?」

「さっき思い出した。これ、僕が首を吊る時に握ってたんだよ。」

 香織ちゃんが震える手で写真を受け取る。
 冷たい手だった。

「なんかよく分かんないけど、死んだ原因を思い出したから僕――成仏できるみたい」

「え……っ?」

「本当にお別れだね」

 僕の目からもついに涙が溢れた。
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