[短編] 昨日の僕は生きていた。
 香織ちゃんは“どうして?”と濡れた瞳で訴えているようだった。

 僕だってずっと香織ちゃんと一緒に居たいよ。
 でも僕は幽霊だ……香織ちゃんと結婚することも出来ないし、触れることすら出来ない。

 やっぱり幽霊の僕がずっと側に居てはいけないと思う。

「なんで、雪彦……? 成仏なんてしなくてもいいじゃない……なんで? どうして?」

 僕は答えなかった。答えない方がいいと思った。

「香織ちゃん、僕は君があまり悲しむのは嫌だから、本当は何も言わずに成仏したいんだ」

「……え……」

「でも最後に――」


 僕は唾を飲み込む。そして、今まで出したことがないような大声を振り絞って出した。

「香織ちゃんには絶対幸せになってほしい! イケメンでお金持ちな男の人と結婚して、過去の僕のことなんかに囚われず――普通に老いていって、子供に看取られながら息を引き取ってほしい!」

 涙は止まらなかった。声も震えて、自分でも何を言っているか分からなかった。

「そして君が天国に来たときに、僕はまた香織ちゃんに告白する! 僕、待ってるから! もう一度、香織ちゃんと自転車の二人乗りするために!」

「雪彦……あんた……」

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