[短編] 昨日の僕は生きていた。
彼女は胸の前で握った手のなかで、僕が渡した手紙を握っていた。
僕が自殺する時に握った二人の写真――きっと彼女は一生、大事にしてくれると思う。香織ちゃんはそういう人だから。
「雪彦、あんたって……幽霊になっても……優しいのね――」
授業開始のチャイムが鳴ると、香織ちゃんは後ろを向いて教室のほうに走っていった。
一度、僕のほうを振り向いた。笑っていた。
香織ちゃんの背中を見ながら、僕は幸せな気持ちになるのを感じた。
+
夏になった。ひときわ蝉がうるさい夏だった。
鞄から取り出したハンカチで頬を伝う汗を拭いて、もう一度自転車のハンドルを握りなおす。
「香織、坂だし歩かない? この坂を自転車はキツイって」
意地になって坂を自転車で登る香織に、隣で同じく自転車に乗っていた由紀子が言った。
「駄目よ! 私、坂は自転車って決めてるから」
「うそ~!?」
「嫌なら由紀子、歩いていいよ」
香織は大学生になっていた。地元の短期大学だった。相変わらずサバサバした強気な性格である。
「意地になってるの? 自転車で坂登るなんて」
由紀子は息をきらしながらも自転車をこいでいた。
僕が自殺する時に握った二人の写真――きっと彼女は一生、大事にしてくれると思う。香織ちゃんはそういう人だから。
「雪彦、あんたって……幽霊になっても……優しいのね――」
授業開始のチャイムが鳴ると、香織ちゃんは後ろを向いて教室のほうに走っていった。
一度、僕のほうを振り向いた。笑っていた。
香織ちゃんの背中を見ながら、僕は幸せな気持ちになるのを感じた。
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夏になった。ひときわ蝉がうるさい夏だった。
鞄から取り出したハンカチで頬を伝う汗を拭いて、もう一度自転車のハンドルを握りなおす。
「香織、坂だし歩かない? この坂を自転車はキツイって」
意地になって坂を自転車で登る香織に、隣で同じく自転車に乗っていた由紀子が言った。
「駄目よ! 私、坂は自転車って決めてるから」
「うそ~!?」
「嫌なら由紀子、歩いていいよ」
香織は大学生になっていた。地元の短期大学だった。相変わらずサバサバした強気な性格である。
「意地になってるの? 自転車で坂登るなんて」
由紀子は息をきらしながらも自転車をこいでいた。