君の知らない空
しばらくして、到着した電車に乗り込んだ。ホームで待っていた時は人が多く感じられたのに、いざ乗車してみるとさほど多くはない。ちゃんと座ることが出来たし。
真っ暗な窓の向こうに、ビルの灯りがちらちら過ってく。灯りだけを見ていたら何も怖いとは思えないのに、暗闇を意識した途端に怖く思えてくる。
携帯電話を取り出そうとバッグに差し入れた手に、イヤフォンが絡みつく。
あの日の彼の顔と言葉が思い出される。
今日は、イヤフォンを着けるのはやめておこう。
イヤフォンを押し込んで、携帯電話を開いた。着信を確認して、再びバッグに携帯電話を戻す。
いつのまにか電車は、二駅目の霞駅に停まった。
さすがにショッピングモールがあるためか、霞駅から乗ってくる人は多い。車内には座席に座りきれず、立っている人も目立ち始めた。
座席の背もたれに体を預けて、立っている人の隙間から窓の外を見つめる。霞駅の近辺は灯りが多くて、安心する。
何気なく隣の車両へと目を向けた私は、そのまま固まってしまった。
彼が立っている。
吊り革に手を掛け、俯いた横顔には眼鏡。いつもの黒いキャップを被っていないし、ラフに羽織った黒いシャツが見慣れないが、間違いなく彼の横顔だ。
ジムの帰りだろうか?
バッグを持っていないから、今日はジムへは行っていないのかも?
優美が言うように彼の自宅が霞駅の近くなら、自宅に帰ってバッグを置いてきたのかもしれない。