君の知らない空

電車は次の南町駅に着いたが、彼は俯き加減のままの姿勢を崩さない。
南町で降りないということは、もしや夕霧駅で降りるのかも?
胸の奥に小さな期待が生まれる。


南町駅から夕霧駅までは約3分。
その間、私は彼を見つめていた。
車両の揺れと距離が邪魔して、はっきりと彼の表情を見ることは出来ないけど。


車掌さんのアナウンスが流れ、電車は速度を落としながら夕霧駅に入っていく。


私は席を立ち、ドアへ向かう。
彼の動きを気にしながら。


あれ?
降りないの?


彼は吊り革を握り締めたまま降りる様子
はない。


やがて停車してドアが開いた。
足を踏み出すと同時に、胸に生まれたばかりの期待が消えていく。


私はホームを出ていく電車を横目に、改札口へ向かって歩き出した。人の流れと共にエスカレーターを上がり、改札口を出て振り返る。


すると、人波が途切れたエスカレーターに彼の姿。
顔が熱を帯び、頬が朱に染まるのが自分でも分かった。再び期待が浮上する。


咄嗟に身を隠そうと思い立つが、そんな場所はあるわけない。目に留まったのは券売機の側にあるフリーペーパーのラック。


とりあえず、どれでもいいからと手に取った。パラパラと捲って見てるフリをしながら、彼が改札口を出てくるのを待つ。


何だか新鮮な気持ち。
ドキドキするのは、まだお酒が残っているせいではない。


諦めが悪いと思うかもしれないけど、もう一度だけ頑張ってみよう。


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