君の知らない空
桂一は私たちに背を向けて、話し込んでいる。時折漏れ聞こえてくる声は、深刻そうな雰囲気。きっと電話の相手は、会社の人に違いない。
そんな桂一を気にしながら、沢村さんがそっと耳打ちした。
「高山さん、もしかして彼氏ですか?」
沢村さんったら、どうしてそんなドキッとするようなことを聞くのかなぁ……
「いやいや、友達なんです」
きっぱりと言い切って、念を押す。
さらに沢村さんが聞きたそうにするが、ちょうどいいタイミングで電話を終えた桂一が振り返った。
しかし、ほっとしたのもつかの間。
「ゴメン、もうちょっとだけ、ここで待ってられる? 仕事が入ったから、すぐに戻る……」
桂一の顔には、明らかな焦りの色が滲んでいる。
「うん、この辺りでぷらぷらしてるよ」
と返したら、安心したような笑顔で桂一は駆け出していった。
彼が見つかったのだろうか。
いや、見失ったのかもしれない。
だから桂一の会社の人たちが、応援に駆けつける話をしていたのかもしれない。
憶測ばかりが胸で渦巻いている。
私にできることはないのか……
「お仕事ですか? 忙しそうですね、営業職ですか?」
不安に駆られながら桂一を見送る私に、沢村さんが呼びかける。
「うん、そうみたい」
営業職……じゃないんだけど、それ以上言いようがない。私が知ってることを話しても信じてもらえないと思うし。
「あの、よかったら一緒にお茶しませんか?」
沢村さんがにこっと笑って指差した。そこは、かつて私が小川亮を追って入った小さなカフェだった。