君の知らない空
市民病院前のバス停で降りて、病院の玄関へと急ぐ。捻挫した足首が重く疼いている。昨日から歩き過ぎたようだ。
玄関の自動ドアが開いた途端、目の前に立ちはだかった数人の男性。
驚いて立ち止まった私を、厳つい男がじろりと睨みつける。「そこを退け」と言わんばかりの威圧感に、私はじりじりと道を開けた。
肩を怒らせて歩く厳つい男の後ろには、美香の兄が見下すような目で私を見据えている。すごく不機嫌そうな顔だ。綺麗な顔をしてるのに、あんなに怖い顔をするなんて少し幻滅だった。
玄関前で立ち止まった彼らの前に、車が停まった。部下が駐車場から車を回してきたのだろう。
美香の兄は、部下の男たちに何やら話して車に乗り込んだ。走り出した車の走り方に、彼の怒りが明らかに現れている。
ここに来ても怒りは収まらなかったようだけど、帰りが早過ぎるようにも思える。
私がここに来るのが、ちょっと遅かったのかもしれない。
バスを待ったことを後悔したが、歩いてもそう変わらなかったはずだと言い聞かせてエレベーターに乗った。とりあえず目指すのは7階、菅野の病室の隣。
息を整えて扉をノックした。ゆっくりと引き戸を開き、ベッドの上で上体を起こして本を読む女性の姿を確かめる。
「こんにちは……」
「ハルミちゃーん、よく来てくれたわ……待ってたのよ」
ベッドの上の女性は、ぱっと顔を綻ばせた。やっぱり、私の名前はハルミらしい。