君の知らない空


さっきから高架下を往復してる。
もしも誰かが私に気づいたら、不審者と勘違いされるかもしれない。でも、そんなこと気にするものか。


あちら側に向かう根拠はないけど、高架下を抜けた交差点で彼を見失ったのなら、まだあちら側にいるはず。それに、私の家の方向だし。


出口の灯りを目指して、まっすぐに速足で。


もうすぐ出口だというところで、ぬっと人影が現れた。駆けてくる影に驚いて、大げさに立ち止まる。


「あれ? 君は……大月の彼女? こんな所でどうしたの?」


見上げた先には桂一の先輩、不思議そうな顔で私を見ている。ぷんとお酒の臭いが漂う。


「大月なら車停めに行ってるから、もうすぐここに来るよ。こんな時間まで仕事?」

「違うんです。友達と食事してて……あの、彼に用はないので帰ります」

「会わなくていいの? 彼女だろ? それに足、まだ治ってないんじゃない?」


先輩がきょとんとした顔をする。私を彼女だと勘違いしているようだ。
会いたくない時に、何てタイミングが悪いんだ。ホント、ついてない。


「違います、ただの友達ですから……失礼します」


両手を挙げて思いっきり否定して、頭を下げた。すぐに歩き出そうとした足が、路面の小さな凹みに取られる。


「いやっ……」


思わず声を上げた。すっと伸びた手が、私の腕を引き上げる。捻挫した足を再び挫きそうになったところを、先輩が支えてくれた。


「すみません」

「大丈夫? 足、いつ挫いたの?」


私の腕を掴んだまま、先輩が顔を覗き込む。急に低い声になった先輩の表情が、明らかに強張っている。間近で吐く息が酒臭い。


私、何か悪いことした?



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