君の知らない空



「胸、痛くないの?  大丈夫?」

「うん、大丈夫、痛みには強いんだ。それにサポーターしてるから平気」


私の心配を吹き飛ばそうとしてくれてるのか、彼は笑顔を見せながら眼鏡を掛けた。


「本当に?  部屋に戻って休んだ方が……ここに来たいって言ってたけど、どこに行きたかったの?」

「橙子、心配しないで。ここに来た目的は果たせたけど、もう少しぶらぶらしてもいい?」

「目的?  まだ何にもしてないけど……?」


私は首を傾げた。
まだ、ここに来てからどの店にも寄っていない。アイスクリームを買って食べただけ。


キャップの鍔をきゅっと摘まんで、彼が顔を隠す。唯一見えてる口元が、にこりと笑ったのがわかった。


「アイスクリームが食べたかった」


ぼそっと零して、はにかんだ彼。


「アイスクリーム?  食べたことなかったの?」

「食べたことはあるけど、あまり食べたことない。一人じゃ買いに行きにくいし、舜は一緒に行ってくれないから」


恥ずかしそうに話す彼もかわいい。出会った頃のもっとクールなイメージとは違うけど、それがまたいい。


もしかしたら、周さんは彼のことを好きなんじゃないかと思ってみたりもする。男だけど、有り得ない話じゃないかも。アキさんを使って私を騙して、彼に近づくのを阻止しようとしてたというのが怪し過ぎるし。


「少しぶらっとしようか、足痛くない?」


ふいに彼が覗き込む。私の勝手な妄想を悟ったかのように。 また恥ずかしくなって、頬が熱くなる。


「うん、大丈夫」


と答えたら、彼が立ち上がって手を差し伸べた。



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