君の知らない空
ショッピングモールの広い通路を、彼と手を繋いで歩いてる。通路沿いの店を眺めながら言葉をかわしたり、そっと見上げると彼が笑顔を見せてくれたり、それだけなのに嬉しい。
天然石のアクセサリー店を通り過ぎながら、彼を追いかけていた懐かしい記憶を辿る。
「以前ね、亮がひとりでこの店に入るのを見てたんだよ。すごく熱心に見てたのに、結局何も買わなかったんだよね」
「よく覚えてるね、その後、あのコーヒー店に入ったんだ。橙子も一緒に入ってきた」
意外な言葉に驚かされる。私が後をついて行ったことを知ってたんだ。
「すごい、いつから気づいてたの?」
「ずっと前から、髪を切った時は驚いたけど、似合ってる」
彼が私の前に回って立ち止まる。
繋いだ手はそのまま、空いてる右手で私の髪をふわりと梳かした。
身体が強張ってしまうのは、さっきから彼が大胆なことばかりするから。唇を噛んで見上げてたら、彼がにこりと指差した。
「お茶しよう」
さっき話したあの日のコーヒー店、彼が座ってたのと同じ席。
「ジムに来た時も驚いた。でも、僕はプールだったから会えなかったね」
「そう、プールがあるなんて知らなくて教えてもらったの。でもね、ひったくりから助けてくれたお礼を言ったのに、無視された時はショックだったよ」
「ごめん、あの時は見られてたから」
彼が申し訳なさそうな顔で謝る。そんなことを要求したわけじゃないのに、こっちが申し訳なくなる。
「誰に? 私と話してるところを見られたらマズかった?」
「うん、お兄さんの部下がいたから」
彼に言われて思い出した。
あの時、確かにジムの出入り口を見ている二人の男性がいたんだ。