君の知らない空
    


「そうだったんだ、ごめんなさい」

「謝ることないよ、橙子は悪くないから」


彼の声は穏やかなのに、じんと胸に沁みてく。コーヒーを飲む彼は、アイスクリームを食べてた時とは違ってクールに見える。


「あの、夕霧駅前の商店街で助けてくれた時、変な人たちを見たんだけど……あれは何だったの?」

「僕の仲間がお兄さんの部下に捕まった、本当は彼と会う約束だったんだけどね」


僅かに彼が顔を曇らせたのがわかる。その後、彼の仲間がどうなったのかは怖くて聞けない。


「亮の家、このショッピングモールの近くだって聞いてたけど……夕霧駅の方だったんだね、この近くで一度、周さんに会ったことがあるよ、美味しいパン屋さんの前で……」


とっさに話題を変えようと飛び出した言葉だったけど、言ってみて気づいた。彼の家がこの近くだなんて、誰から聞いたのか突っ込まれるかもしれない。


それに、この近くの家に綾瀬が押し掛けてたことを思い出すと、ますます言うべきじゃなかったのかも。


「どっちでもいいんだ、舜と僕と一緒に住んでるみたいなものだし。あそこのパンは美味しいね、舜が見つけて買ってきてくれた」


とりあえず、ほっとした。
家のことを誰に聞いたのか、突っ込まれなくて済んだから。
でも、一緒に住んでるなんて言うから変な妄想が蘇る。いけない、話題を変えなければ。

「もう、ジムには行ってないの?」

「うん、行きたい気分の時とそうじゃない時があるんだ、今は行きたくない気分。橙子も行けないからね」

「今度、一緒に行けたらいいな……」

「うん、行こう。お互いに怪我が治ったらね」


彼の優しい笑顔を見てたら、安心感に満たされていく。
ずっと、一緒にいたい。



< 316 / 390 >

この作品をシェア

pagetop