ハッピークライシス









足音は遠ざかり、辺りは静寂に包まれる。
緊張の糸がぶつりと途切れて、崩れ落ちそうになった身体をシンシアが支えた。


「"不思議な力なんて、そんな魔法はこの世に存在しなかった"」


ユエに言われたことを、シホはそのまま口にした。
するとシンシアは、驚いたように目を見開いた後、気遣うようにシホの肩を撫でた。


「昨晩、スウェイスの銀行経由で、フィリップ=フェデリコ名義の400万ドルが口座に振り込まれていた」

「…え?」

「取引は、何の問題もなく行われたということだ」

「どういうこと、」


そこまで言いかけて、やめた。
シホには、おそらくシンシアも、それが誰の仕業かすぐに理解出来た。

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