ハッピークライシス


「……ごめん。怒ってない。ありがとう」


いいんだよ、そう言ってユエは満足げに笑みを浮かべた。
そんな彼を見て、シホはいつも複雑な気持ちになる。

ユエ=ハネンフースは極上の男だ。
整った外見に、知能と身体能力もずば抜けて高い。女性の扱いも上手く、決して退屈させない。

そんな人間が近くにいれば、"まともな"男を愛することが困難になるのも仕方が無い。

シホは、今日までの間に、当然の如く何度かユエを好きになった。
気持ちが高ぶる度、告げる代わりにセックスを誘い、ユエも断ることなくそれに乗った。


けれど、何度身体を繋げても、年を重ねるうちに、ユエと普通に愛し合うことは不可能だと自然に悟ったのだ。

ユエは完璧なのに、何かが"欠落"している。自身も気づかない、けれど本能でそれを埋めようとする欲求が、彼を駆り立てるのではないか。

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