*NOBILE* -Fahrenheit side UCHIYAMA story-
だが、この数分後柏木様はまたも戻ってこられた。
走ってきたのか僅かに息を切らして、カウンターに手をつく。
「いかがなされました?」
私が聞くと、
「バッテリーがあがっちゃったみたいなんです。しばらく動かしてなかったから」
と彼女は切れ切れの息で何とか答える。
「バッテリーが?それは大変ですね。今から業者を呼んでも来るのは数十分後でしょうね。
私が手配しますので、柏木様はタクシーで行ってください」
「お手数ですがお願いします。申し訳ございませんウチヤマさん」
いえ、仕事ですので。
その言葉が出てこなかった。
私が彼女の手助けをしたいと思うのは、仕事と言う状況からではなく、私個人としての気持ちからだ。
でも結局
「お気になさらず。今タクシーをお呼びしますね」
私は機械的にそう答えていた。