Secret Lover's Night 【連載版】
「そーだよ、姫。このお姉さんすっごく怖い人だから」
「ちょっと!めいじ!」
「あーきーはーるだっつってんじゃん。ホント、マリーはいつまで経ってもおバカさんなんだから」
「ちょっと!」
「えー?俺何か言ったっけ?」

カッと頬を紅潮させたマリが、何だか晴人にはとても新鮮で。そっと後ろに手を伸ばし、千彩の手を取って引き出した。

「ちぃ、お姉さんにご挨拶して?」
「…こんにちわ。ちさです」
「え?あっ、こんにちわ」

俯く千彩の頭を撫でながら、晴人は思う。この二人も上手くいけばいいのに…と。

「ね?可愛いでしょ?」
「え?あぁ、うん…そうね」
「何?不服そうだけど」
「え?だって…まだ子供じゃない、この子」
「相変わらず失礼な女だね、マリーは」
「だからっ…!」
「ごめんねー、姫。さ、こっちおいで。俺がもっと可愛くしてあげる」
「うん!」

言葉の意味が上手く伝わっていないだろう千彩は、メーシーに手を引かれてご機嫌にその場を後にした。それに少し荷を軽くした恵介が続く。ポツンと残されたマリに、晴人は少し寄って肩を並べた。

「なぁ、マリ」
「え?何?」
「知ってた?」
「…何を?」
「彼女ってな、一番愛してる人のことを言うらしいわ」
「は?何言ってんの?」
「だから俺の彼女になりたいって強請られてな。そんな可愛いこと言われたら叶えてやらんわけにはいかんやん?ほら、俺フェミニストやから」
「…バッカじゃないの」

ニヤリと笑うと、マリは俯き加減に悪態をついた。けれど、その頬が少し赤い。

「何?」
「え?」
「いや、赤い顔してるから何かなと思って」
「べっ…別に何もない!」

プイッと顔を背け、カツカツとわざと大きめの音を立てて歩いて行くマリの後姿を見ながら思う。あんな女だったか?と。

あまり褒められた事ではないと自分でもわかっているけれど、恋人がどんな女だろうがさして興味はなかった。いちいちそんなことは考えていられない。何せ、自分で言うのも何だが、「乗り換え自由」でやってきたのだ。合わなければ次を受け入れれば良いだけの話で、そんなことを気にする必要性は無い。

それがどうだろう。ほんの数分一緒に居るだけで、懐かしんだり、表情を新鮮に思えたり、新しい恋を応援してみたり、人物像を思い返してみたり…と、実に忙しい。こんなこと、今までに無かった気がする。慣れない…と、晴人は自販機の前に立ちながら唸る。
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