Secret Lover's Night 【連載版】
女の子は女の子で、立派に成長はしているのだけれど、やはり千彩はマリなどとは比べものにならないくらい幼い体つきをしている。敏感なマリならば、それがどういった意味を持つのかすぐに察しがつくだろう。

「あれ?王子も来たの?」
「着替え中やからな」
「まだ頑張ってたんだ。こりゃ意外」

そんな風に言われるのは致し方ない。けれど、それについては自分が一番驚いているのだ。何年もかけて確立させたスタイルを、たった一週間でいとも簡単に崩されてしまうだなんて。

しかもそうさせた相手が、まだ17歳の、普通の女の子だなんて。自分でも俄かに信じ難い。


「けーちゃーん!着替えたよ!」


パタパタと、メイクルームを出て来た千彩がいの一番に恵介に駆け寄る。それに些か不満を感じつつも、あまりに嬉しそうな恵介の様子に、晴人はそれを黙って見守ることにした。

「はるー!見て見てー!」

帽子のツバをちょんと摘まみながら嬉しそうに笑う千彩は、やはりいつでも無邪気にはしゃぐ少女で。その姿をセッティングしていたカメラに収め、晴人はにっこりと笑って三人に千彩を向き直らせた。

「可愛くしてもろて良かったなぁ」
「うん!」
「ほな、ちゃんともう一回ありがとうして?」
「めーしー、けーちゃんありがとう!あと、マリちゃんも!」

晴人のその様子で気付いたのか、三人はペコリと頭を下げる千彩に「どういたしましてー」と声を揃えた。そして、恵介とメーシーはそれぞれに千彩の手を取り、少し屈んで視線を合わせる。

「短くしたんだから、ちゃんと自分で乾かすんだよ?」
「うん!」
「俺はもっといっぱいちーちゃんに似合う服用意しとくわな」
「えー。もうしまうとこに入らないよー」
「それでも…それでもいっぱい用意しとくから!」

寂しげな二人とは対照的に、千彩はとても嬉しそうに笑っていて。そんな嬉しそうな千彩に告げてしまうことは少し胸が痛かったが、時計の針はそろそろだと別れの時を知らせていた。

「ちぃ、そろそろ行こか?」
「えっ、もう?」
「道混んでたら困るから。な?」
「…うん」

途端にしゅんとしてしまった千彩の肩を抱き、晴人は三人に一度コクリと頷いてみせる。別れを惜しむ恵介は、もう泣き出しそうで。そんな恵介の肩を抱き、メーシーはいつものようににっこり笑って小さく手を振っていた。

「ほら、ちゃんと挨拶して?」
「…うん」

やはり別れというものは、たとえ一時的なだとしてもしんみりとしてしまう。あと一時間も経たないうちに自分も…と思考を流されかけて、晴人は大きく頭を振り、滅多に使わない三脚を引っ張り出してカメラをセットした。


「ハイ、チーズ!」


何年振りだろうか。こんな風に写真を撮ったのは。ノーメイクを嫌がったマリまでもを引っ張り込み、皆で一番の笑顔を残した。
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