Secret Lover's Night 【連載版】
プラットホームに見える後姿に、ズキンと胸が痛む。千彩も思うことは同じなのか、なかなかその後姿に声を掛けようとはしなかった。
喧騒の中で、二人だけ取り残された気さえする。大きな荷物を片手に、晴人はあと数歩が踏み出せない。
そのうちにその人物が振り返り、二人の姿を捕らえ目を見開いた。
「ちー坊!どないしたんやその髪!」
「めーしーが切ってくれた」
「あーあ。もったいない…」
心底残念そうに言う吉村に、晴人は苦々しい表情で謝る。
「すみません、勝手に切って。こいつ自分で髪乾かすん嫌がるから、離れてる間苦労するかと思って」
「乾かす?そんなんわざわざしてくれとったんですか?」
「え?ええ、まぁ」
やはり男親はその辺りに無頓着なようで。驚きながらも「へぇー」と感嘆の声を漏らしている。
「今日もまた可愛らしい格好さしてもろて」
「これはねー、けーちゃんがくれた」
「また買うてもろたんかいな。えらいすんません…」
「いや、いいんです。もうそれがあいつの趣味みたいになってますから。それに、職業柄安く手に入ったりもするんで、その辺は気にしないでください。あいつ、あんなんでも一応売れっ子のスタイリストなんです」
「すんませんなぁ」
自分を含め、恵介にせよメーシーにせよ、千彩にかけるお金を惜しんだことはない。同年代のサラリーマンと比較すればはるかに自分達の方が収入は得ていることだし、これくらい買い与えたところで生活には何の支障も来さない。
それに、何より…
「皆さんに可愛がってもぉて…ホンマちー坊は幸せもんやな」
「うん!ちさ幸せ!」
皆、千彩が可愛くて仕方ないのだ。それぞれがそれぞれで可愛がりたくて、甘やかしたくて仕方がない。
「服、足りんやろうし送るわな?」
「いいよー」
「何で?可愛い服着たいやろ?」
「ううん。あれは、みんな喜ぶから着るの。ちさなんでもいいもん」
へへっ。と笑う千彩の言葉を聞いて、元は関心が薄かったことを思い出す。ここ数日着飾っていたから、そんなことはすっかり頭の隅に追いやってしまっていたけれど。
「服やら何やらは俺が色々買い足しますわ。皆さんみたいにこんなオシャレなもんは着せてやれんやろうけど…」
「あぁ…僕らは職業柄ファッションと関わりが深いもんですから。千彩自身は、TシャツにGパンとかの方が楽やと思います」
「そう言うてもろたら気が楽になりますわ」
はははっ。と軽い調子で笑う吉村が、スッと千彩に手を差し出す。それを見て俯いてしまった千彩の頭を帽子の上から一撫でし、晴人はうんと優しい声色で言葉を紡ぐ。
「約束したやろ?」
「…うん」
「大丈夫や。俺は絶対にお前を捨てたりせん。な?」
「…うん」
正直、もう少しぐずると思っていた。道路状況が読めなかったせいもあるけれど、早めに出発した理由はそれが大半を締めていた。
喧騒の中で、二人だけ取り残された気さえする。大きな荷物を片手に、晴人はあと数歩が踏み出せない。
そのうちにその人物が振り返り、二人の姿を捕らえ目を見開いた。
「ちー坊!どないしたんやその髪!」
「めーしーが切ってくれた」
「あーあ。もったいない…」
心底残念そうに言う吉村に、晴人は苦々しい表情で謝る。
「すみません、勝手に切って。こいつ自分で髪乾かすん嫌がるから、離れてる間苦労するかと思って」
「乾かす?そんなんわざわざしてくれとったんですか?」
「え?ええ、まぁ」
やはり男親はその辺りに無頓着なようで。驚きながらも「へぇー」と感嘆の声を漏らしている。
「今日もまた可愛らしい格好さしてもろて」
「これはねー、けーちゃんがくれた」
「また買うてもろたんかいな。えらいすんません…」
「いや、いいんです。もうそれがあいつの趣味みたいになってますから。それに、職業柄安く手に入ったりもするんで、その辺は気にしないでください。あいつ、あんなんでも一応売れっ子のスタイリストなんです」
「すんませんなぁ」
自分を含め、恵介にせよメーシーにせよ、千彩にかけるお金を惜しんだことはない。同年代のサラリーマンと比較すればはるかに自分達の方が収入は得ていることだし、これくらい買い与えたところで生活には何の支障も来さない。
それに、何より…
「皆さんに可愛がってもぉて…ホンマちー坊は幸せもんやな」
「うん!ちさ幸せ!」
皆、千彩が可愛くて仕方ないのだ。それぞれがそれぞれで可愛がりたくて、甘やかしたくて仕方がない。
「服、足りんやろうし送るわな?」
「いいよー」
「何で?可愛い服着たいやろ?」
「ううん。あれは、みんな喜ぶから着るの。ちさなんでもいいもん」
へへっ。と笑う千彩の言葉を聞いて、元は関心が薄かったことを思い出す。ここ数日着飾っていたから、そんなことはすっかり頭の隅に追いやってしまっていたけれど。
「服やら何やらは俺が色々買い足しますわ。皆さんみたいにこんなオシャレなもんは着せてやれんやろうけど…」
「あぁ…僕らは職業柄ファッションと関わりが深いもんですから。千彩自身は、TシャツにGパンとかの方が楽やと思います」
「そう言うてもろたら気が楽になりますわ」
はははっ。と軽い調子で笑う吉村が、スッと千彩に手を差し出す。それを見て俯いてしまった千彩の頭を帽子の上から一撫でし、晴人はうんと優しい声色で言葉を紡ぐ。
「約束したやろ?」
「…うん」
「大丈夫や。俺は絶対にお前を捨てたりせん。な?」
「…うん」
正直、もう少しぐずると思っていた。道路状況が読めなかったせいもあるけれど、早めに出発した理由はそれが大半を締めていた。