Secret Lover's Night 【連載版】
「ねー、ともと」
「俺の名前は「ともひと」やって言うとるやろ」
「だって言いにくいんやもん」
「別にええけどやなぁ」

ポリポリと人差し指で頭を掻きながら、智人はポケットに押し込んでいたタバコを引っ張り出した。

火を点け、ハッと気付く。こいつの前で吸って大丈夫だろうか、と。

「ともと、何のタバコ?」
「ん?赤マル」

親指と人差し指で抓まれてゆらゆらと揺らされる箱の動きに合わせ、千彩も同じように首を動かす。ピタリと動きを止めると、千彩の動きもピタリと止まる。

「くくっ…お前あほやろ」
「あほ?ちさ?」
「お前以外に誰がおんねん」

首を傾げながらも、千彩の目線はゆらゆらと揺れる箱を追っていて。これは簡単に催眠術にかかりそうだな。と、千彩の額にピタリとその箱を押し付けて笑った。

「お兄は何のタバコか知ってるか?」
「おにー?」
「晴人や、晴人」
「はるはねー、青いやつのすーぱーらいと!」
「あぁ、マイセンな」
「おにーさまは、ぴーす」
「へぇ」
「ぴーすは、平和って意味なんだよ」
「ほぉ。よぉ知ってるやん」

ポンポンと頭を撫でたものの、「それくらい知ってて当たり前か」と手を引いた智人に、千彩は自慢げに「ふふん」と胸を張った。

「ちさ、おりこーさん!」
「いくつや、お前は」
「17歳!ともとは?」
「俺?25歳」

言いながら手を伸ばし、智人は持って下りた本を千彩に差し出した。

「これでも読んどけ」
「これ絵本?」
「は?」
「絵本じゃないの?」

表紙に並ぶ文字は、間違い無く英文で。確か詩集だったか…と、ペラペラとページを捲って中身を確認し、コクリと頷く。
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