Secret Lover's Night 【連載版】
「明日、お前も帰るか?」
「んー?俺はやめとくわ。お前が行くんやったら大丈夫やろ」

いつだって恵介は、こうして自分に物事を委ねる。顔を上げた晴人に、恵介は黙ってタバコを差し出した。

「俺は…アイツのことなんも知らん」
「んー…」
「ただ…たまたま拾って、物珍しいから傍に置いて…それだけやったんかもしれん」

千彩に対する想い自体を疑うまでになった晴人に、恵介はただ黙って頷いた。

「俺では…アイツを守ってやられんかもしれん。幸せにしてやれんかもしれん」
「弱気やなぁ」
「違い過ぎるんや。俺とアイツじゃ」
「そんなもんやろー。同じ人間なんかおらんって」
「わかって…やれん。アイツの痛みを、俺はわかってやれん」

再び潤む晴人の目に、珍しく真面目な表情をした恵介が映る。もう10年以上親友というポジションにいる晴人は、そんな時の恵介が紡ぎ出すだろう言葉を知っていた。


「ほな、俺がわかるように努力するわ。んで、お前に教えたるから。そんなこと言うたりなや。ちーちゃんはお前のこと大好きなんやから」


嗚呼、あの時と同じだ。と、晴人は瞳を伏せる。

専門学校に入学した年に付き合っていた恋人とケンカをする度、恵介は決まってこう言っていた。その度に頷き、恵介に仲直りの切欠を作ってもらっていた自分。

結局、何年経っても変わらない。と、晴人は静かにタバコに火を点けた。

「お前は…変わらんな」
「そーか?てか、お前が変わり過ぎなんやろ、せーと。今のお前、俺結構好きやで」
「お前に言われても嬉しないわ」

「じゃあ、アタシに言われたら嬉しい?」

不意に掛けられた声に、二人は同時に振り向く。そこには、ニヤリと口角を上げて怪しげに笑うマリと、「やれやれ…」と腕組みをしながら肩を竦めるメーシーが居た。

「他のスタッフ、もう寝ちゃったのよ。折角だから飲み直しましょうよ」
「ごめんね。止めたんだけどさ」

ショートパンツにTシャツ、その上にパーカーを羽織ったラフでこの地では少し肌寒そうな格好のマリは、長い髪を一つに纏めて大きなサングラスをかけていた。

「ええけど…どっか出るん?」
「こんな静かなところで飲んだって面白くないじゃない。外の居酒屋でも行きましょうよ」

早く!と急かされ、晴人は渋々腰を上げる。

「ごめんね、王子。部屋で俺と飲もうって言ったんだけど」
「ええよ。わかっとるから」

神経質な晴人が、明け方まで独りで酒を飲んで時間を潰すことは皆わかっている。だから恵介もここへ来たし、メーシーだってマリが寝付いたらここに来ようと思っていた。

「不器用だからさ、彼女」
「そりゃ女友達できんわな」

多少強引であろうと、これがマリなりの「友達」に対する気遣いなのだ。それを有難く受け取ることにして、晴人は夜街へと繰り出した。
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