Secret Lover's Night 【連載版】
「酒がまずなった。帰るで、ちーちゃん。おいで」
「ん」
じっと吉村を見上げながら微動だにしなかったその少女は、女の言葉に短く返事をし、よろよろと立ち上がる。
「はよし。置いて帰るで」
「ん」
どうにも上手く足が進まないのか、少女の体は左右にゆらゆらと揺れていて。堪らず抱き上げて自分のコートを羽織らせると、吉村は女の腕を無理やりに引いて自分の車へと押し込んだ。
「お前が他の組の女なんやったら、簡単には連れて帰られへん。どこや」
「…籐極」
「籐極会…か」
これはまずい。と、吉村は眉根を寄せる。籐極会と言えば、この辺り一帯の組を纏める元締めだ。そんなところの女に何かをしたとなれば、自分の命は危うい。ゴクリと息を呑む吉村に、女は青白い顔で訴えた。
「助け…て。千彩だけでも…お願い」
そこに先程まで見せていた挑発的な態度はなく、腕の中の我が子を差し出して助けを求める母親の姿があった。
「わかった。俺がお前らを助けたる。心配すんな」
それが、吉村が最初に交わした美奈との約束だった。
閉じた瞼の裏に焼き付くのは、頼りない美奈の笑顔。そして、それによく似てきた千彩の笑顔。
「美奈…俺はちー坊を助けてやれたんやろか」
焼酎の入ったグラスを見つめながら、吉村は弱々しい声を押し出す。カラン、と氷がグラスにぶつかり、吉村の涙を誘った。
「ん」
じっと吉村を見上げながら微動だにしなかったその少女は、女の言葉に短く返事をし、よろよろと立ち上がる。
「はよし。置いて帰るで」
「ん」
どうにも上手く足が進まないのか、少女の体は左右にゆらゆらと揺れていて。堪らず抱き上げて自分のコートを羽織らせると、吉村は女の腕を無理やりに引いて自分の車へと押し込んだ。
「お前が他の組の女なんやったら、簡単には連れて帰られへん。どこや」
「…籐極」
「籐極会…か」
これはまずい。と、吉村は眉根を寄せる。籐極会と言えば、この辺り一帯の組を纏める元締めだ。そんなところの女に何かをしたとなれば、自分の命は危うい。ゴクリと息を呑む吉村に、女は青白い顔で訴えた。
「助け…て。千彩だけでも…お願い」
そこに先程まで見せていた挑発的な態度はなく、腕の中の我が子を差し出して助けを求める母親の姿があった。
「わかった。俺がお前らを助けたる。心配すんな」
それが、吉村が最初に交わした美奈との約束だった。
閉じた瞼の裏に焼き付くのは、頼りない美奈の笑顔。そして、それによく似てきた千彩の笑顔。
「美奈…俺はちー坊を助けてやれたんやろか」
焼酎の入ったグラスを見つめながら、吉村は弱々しい声を押し出す。カラン、と氷がグラスにぶつかり、吉村の涙を誘った。