Secret Lover's Night 【連載版】
「すんませんでした」
「もうええんよ?お兄さん」
「ホンマやったら私が面倒見て、ちゃんとせなあかんのに…」
「あのね、ちーちゃんの面倒見たいって言うたんは智人なんよ。お父さんも晴人も説き伏せて、あの子が自分でやりたいって」
「そんな…」
「親にしたらね、嬉しいことやわ。あの子は誰に似たんか物凄い自由気ままな子でね、そんなこと言い出すやなんて思ってもみんかったから」

「どーもすいませんね、ボンクラ息子で」

カチャリと扉が開く音と、聞こえた声は同時だった。それにまた慌てて頭を下げ、吉村は胸に詰まる思いを押し殺す。

「トモさん、ホンマにありがとうございました」
「いやいや、まだ終わってませんから」
「コラ。そんな言い方するもんやないの」
「ええんです、ママさん」
「取り敢えず、頭上げてください。親父が帰って来る前にある程度のこと説明します」

まるで事務処理をこなすかのように淡々とした智人の態度に、吉村は少し不安を感じた。

吉村が見る限りでは、姉の有紀と長男の晴人はよく似た性格をしている。そして、千彩のことも可愛がってくれている。けれど次男の智人だけは、どうも冷たさを感じる人物で。千彩を嫌っているようには見えないのだけれど、歓迎しているようにも見えない。

そんな智人が面倒など見れるのか。と、視線を上げながら唇を噛んだ。

「座ってください。これ、病院からの手紙です。ほんで、これが千彩が毎日飲んでる薬」

母から受け取った物をそのまま吉村に渡し、智人はソファに腰掛けた。促されて腰掛けた吉村はゆっくりとその手紙を開き、並ぶ文字に眉間の皺を深くした。


「千彩から話聞く限り、根本的な原因は育ってきた環境やと思います。一番大きな傷になってんのが、母親が自分を置いて死んでしもたことです。自分は連れて行ってもらえへんかったって言うてました。次に大きな傷が、ボスが自分を庇って死んだことです。その時の状況も詳しく聞きました。吉村さん、知ってますか?」


智人の言葉に、吉村は慌てて視線を上げて大きく首を振った。

ボスが亡くなったと知らせを聞いて戻った時には、もう既に千彩の姿はどこにもなかった。必死になって探すも見つからず、漸く見つけた千彩に問い質しても返ってくる言葉は「わからん」「知らん」ばかりで、その時の状況を聞くことが出来なかったのだ。
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