Secret Lover's Night 【連載版】
あない怒らして、メイクしてもらえんようなっても知らんからな」
「えー!先言うてや、そうゆう大事なことは」
「知るか。お前が勝手に突っ掛かったんやろが」

そう言えば…と嫌な事を思い出した恵介が頭を抱え、それを見た晴人が「あーあ」と小さく漏らした。

「粘着質なんやからな、あの男」
「あー、ぽいぽい!」
「ぽいぽい!ちゃうわ。うちのチームのブレーンなんやぞ」
「そんなんにーちゃんがおったら十分やん!」
「それがそうもいかんのやって」

ふくれっ面の悠真の頬を突き、晴人は笑う。数時間ぶりに見たその穏やかな表情に、恵介はホッと胸を撫で下ろした。

「人にはそれぞれ得意分野とキャパシティがある」
「まぁ…それはそうやな。智人の代わりにギター弾け言われても、俺には無理やもん」
「やろ?あの男はそれがめちゃくちゃ広いんや。それに、頭の回転も速い。俺なんか比べもんにならんくらいな」

そんなに!?と驚く悠真の頭を撫で、晴人はドサッと背もたれに体を預けて天井を見上げた。

「起きたらちゃんと叱らんとな」
「え?ちーちゃん怒るん?」
「怒るんちゃう。叱るんや。こんだけ皆に心配かけやんやからな」
「晴人なんか今にも死にそうな顔しとったもんな」

あははーと陽気に笑う恵介に、難しい意図だとか策略などはない。ただ単に晴人に笑顔が戻ったことが嬉しくて、幸せなだけだ。

「お前は呑気でええな」
「んー?俺らはこれでイーブンやろ。な!」

何とも気の抜ける返答に、晴人を初め他も笑うしかない。こうして落ち着きを取り戻した大人達は、それぞれに冷えたコーヒーを飲みながら笑い合った。
< 339 / 386 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop