Secret Lover's Night 【連載版】
「お前の家族は、ハルさんとハルさんのご家族や。ほんで、これから生まれてくるやろう子供。それがお前の家族や」
「おにーさまは?」
「嫌になったらいつでも帰れると思ったらあかんのや。そんな娘、おにーさまは要らんからな」

吉村の言葉にむぅっと頬を膨らませ、千彩はギュッと吉村を抱き返した。

「おにーさまは、ちさのパパやのに!」
「それでも、や」
「おにーさま、もうちさのこといらんの?」
「おにーさまが要らんのとちゃう。ハルさんがちー坊のことが必要なんや」
「はるが?」
「せや。これからお前は一生ハルさんのことだけ考えて生きてったらええんや」
「ん?うん」

意味が伝わらないのか、千彩は小さく首を傾げる。けれどその言葉だけはしっかりと胸に刻んだ。

「はるに幸せって言ってもらえるように、ちさ頑張るよ!」
「せや。ちー坊が頑張っとったら、ハルさんはずっとちー坊のこと好きでおってくれるからな」
「うん!」

あぁ、この笑顔が好きなんだ。

満面の笑みで自分を見上げる千彩は、幼かったあの頃と変わらず吉村の宝物だ。この笑顔を守るため、どんな過酷な仕事の後でも必ず家へ帰ろうと思えた。

自分の命を賭けるのは、この子だと決めて。

「ほな、おにーさまは行くから。ちゃんと昨日のこと皆さんに謝るんやぞ」
「はーい。おにーさま、お仕事?」
「お仕事や」
「いってらっしゃい!」

笑顔で見送ってくれる千彩は、いつかの愛しい人の姿とよく似ていて。大きなったな…とボソリと残し、吉村は千彩にだけ別れを告げてマンションを出た。
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