Secret Lover's Night 【連載版】
「晴人ー、コーヒー冷めんで」
「おぉ」
「おぉ。じゃない!時雨!晴人にコーヒーなんて淹れなくていいんだよ!」
「え?ですが…」
「命令!」
気が立った坊ちゃまに、時雨も呆れ顔だ。まぁまぁ、と宥めるために立ち上がった恵介までもギロリと睨み付け、渚は頬を膨らせる。
「そんな怒りなや。今回のことはナギも悪いんやから」
「俺は本当のことを千彩に教えてやっただけだ!」
「何が本当のことやねん。嘘ばっか吹き込みやがって」
「何が嘘なんだよ。どこが嘘?説明してみろよ」
これだから子供は…と言いかけて、不安げな千彩の目に捕まる。せっかく上手く誤魔化せたと思ったのに、これでは数時間前に逆戻りではないか。さすがに、この人数の前であんな恥ずかしいセリフを吐かされるのはゴメンだ。と、本気が故の羞恥心に悩む。
「何て言うて千彩を連れて来たんかは知らんけどやなぁ…」
「晴人が他の女と会ってるって教えてやったんだ。千彩の他にも、晴人には好きな女がいるんだって」
「会うてたんは事実や。でも、あれはうちの事務所が契約しとる事務所のモデルで、好きも嫌いも無いわ。仕事の延長」
「へぇー。そう言っちゃえばどんな女とでも遊べるもんな!」
「高校生のガキやないんやから、そんながっつくか。もう30やぞ?30」
「大人の付き合いは、どんな風にでも言い訳出来るもんな!」
どれだけ捻くれて育ったんだ。と、ツッコミたくもなる。それは晴人だけならず、恵介も時雨も同じで。皆言葉にこそ出さないけれど、呆れた表情で渚を見つめていた。
「何?反抗期?」
「違う!」
「せやったら何やねん。何回も言うけど、千彩は俺のもんやからやらんぞ」
どうしてこうも次から次に…と大きく息を吐く晴人の顔を、プリンを食べ終えてスッと腰を浮かせた千彩が覗き込んだ。
「ごめんね?はる」
「ん?」
「ちさ、頑張って早く大人になるから。ごめんね?」
そんなことを望んでいるわけではない。寧ろ、このまま成長が止まれば良いのに…などと見事なロリコン思考を持ち合わせている。けれどそれは、申し訳なさそうにしゅんと肩を落とした千彩には伝わっていなくて。ポンポンッと頭を撫で、口の端に付いたままだったホイップを親指で拭ってやる。
「大人になったら嫌いになるかも」
「えっ!?」
それは大問題だ!と、千彩の猫目が大きく見開く。それを見てぷっと吹き出し、晴人はちゅっとこめかみに唇を寄せた。
「冗談や」
「嘘?」
「嘘ちゃう。冗談。そんな急いで大人にならんでもええわ。どうせそのうちなるんやし」
なるべく遅い方が良い。そう思う晴人は、それ以上何も言わずにゆっくりと千彩の髪を撫ぜた。そんな様子を見て、心穏やかでないのは渚だ。突然「だー!」と叫び出したかと思うと、二人の間に割って入ってきた。
「ウザ晴人!」
「あー、ハイハイ。どうもすいません」
「早く帰れよ!千彩置いて!」
「何で置いて帰らなあかんねん」
「オッサン達は邪魔なんだよ!」
「あー!やっぱ腹立つ!せっかく連れてきてやったのに!」
恵介と時雨の冷たい視線を気にもせず、晴人と渚は再びいがみ合う。仲が良いのだか悪いのだかよくわからない状態に、千彩も「うーん…」と首を傾げた。
「けーちゃん、はる何で怒ってるん?ちさのせい?」
「ちーちゃんのせいちゃうで。ナギのせい」
「なぎの?うーん…」
少し考え、何かを思いついた千彩。ぶぅっと頬を膨らせたかと思うと、晴人を庇うように両手を広げて二人の間に割って入り、じっと渚を見上げた。
「ダメ!」
「千彩?」
「はるにそんなん言ったらダメ!ちさの晴人なんやから!」
大好きな千彩にそんな風に言われてしまえば、渚は黙るしかない。グッとしかめっ面をして言葉を飲み込んだ渚の頭を撫で、千彩は「いーこ、いーこ」と笑う。もしかしたら…魔性?と、大人三人は思った。
「なぎ、けーちゃんにごめんなさいした?」
「え?あー…まだ」
「ちゃんとごめんなさいしない子は悪い子!」
「あー…恵介、ごめん」
やけに素直じゃないか。と、呆れもするというもので。苦笑いで「もうすんなよー」と答える恵介にコクリと頷き、渚はドサッとソファに腰掛けた。
それを見て、千彩はとても満足げで。まだやり足りないけれど、これはこれで良い薬になったかもしれない。そう思い、晴人は時雨が淹れ直してくれた温かいコーヒーを飲み直した。
「おぉ」
「おぉ。じゃない!時雨!晴人にコーヒーなんて淹れなくていいんだよ!」
「え?ですが…」
「命令!」
気が立った坊ちゃまに、時雨も呆れ顔だ。まぁまぁ、と宥めるために立ち上がった恵介までもギロリと睨み付け、渚は頬を膨らせる。
「そんな怒りなや。今回のことはナギも悪いんやから」
「俺は本当のことを千彩に教えてやっただけだ!」
「何が本当のことやねん。嘘ばっか吹き込みやがって」
「何が嘘なんだよ。どこが嘘?説明してみろよ」
これだから子供は…と言いかけて、不安げな千彩の目に捕まる。せっかく上手く誤魔化せたと思ったのに、これでは数時間前に逆戻りではないか。さすがに、この人数の前であんな恥ずかしいセリフを吐かされるのはゴメンだ。と、本気が故の羞恥心に悩む。
「何て言うて千彩を連れて来たんかは知らんけどやなぁ…」
「晴人が他の女と会ってるって教えてやったんだ。千彩の他にも、晴人には好きな女がいるんだって」
「会うてたんは事実や。でも、あれはうちの事務所が契約しとる事務所のモデルで、好きも嫌いも無いわ。仕事の延長」
「へぇー。そう言っちゃえばどんな女とでも遊べるもんな!」
「高校生のガキやないんやから、そんながっつくか。もう30やぞ?30」
「大人の付き合いは、どんな風にでも言い訳出来るもんな!」
どれだけ捻くれて育ったんだ。と、ツッコミたくもなる。それは晴人だけならず、恵介も時雨も同じで。皆言葉にこそ出さないけれど、呆れた表情で渚を見つめていた。
「何?反抗期?」
「違う!」
「せやったら何やねん。何回も言うけど、千彩は俺のもんやからやらんぞ」
どうしてこうも次から次に…と大きく息を吐く晴人の顔を、プリンを食べ終えてスッと腰を浮かせた千彩が覗き込んだ。
「ごめんね?はる」
「ん?」
「ちさ、頑張って早く大人になるから。ごめんね?」
そんなことを望んでいるわけではない。寧ろ、このまま成長が止まれば良いのに…などと見事なロリコン思考を持ち合わせている。けれどそれは、申し訳なさそうにしゅんと肩を落とした千彩には伝わっていなくて。ポンポンッと頭を撫で、口の端に付いたままだったホイップを親指で拭ってやる。
「大人になったら嫌いになるかも」
「えっ!?」
それは大問題だ!と、千彩の猫目が大きく見開く。それを見てぷっと吹き出し、晴人はちゅっとこめかみに唇を寄せた。
「冗談や」
「嘘?」
「嘘ちゃう。冗談。そんな急いで大人にならんでもええわ。どうせそのうちなるんやし」
なるべく遅い方が良い。そう思う晴人は、それ以上何も言わずにゆっくりと千彩の髪を撫ぜた。そんな様子を見て、心穏やかでないのは渚だ。突然「だー!」と叫び出したかと思うと、二人の間に割って入ってきた。
「ウザ晴人!」
「あー、ハイハイ。どうもすいません」
「早く帰れよ!千彩置いて!」
「何で置いて帰らなあかんねん」
「オッサン達は邪魔なんだよ!」
「あー!やっぱ腹立つ!せっかく連れてきてやったのに!」
恵介と時雨の冷たい視線を気にもせず、晴人と渚は再びいがみ合う。仲が良いのだか悪いのだかよくわからない状態に、千彩も「うーん…」と首を傾げた。
「けーちゃん、はる何で怒ってるん?ちさのせい?」
「ちーちゃんのせいちゃうで。ナギのせい」
「なぎの?うーん…」
少し考え、何かを思いついた千彩。ぶぅっと頬を膨らせたかと思うと、晴人を庇うように両手を広げて二人の間に割って入り、じっと渚を見上げた。
「ダメ!」
「千彩?」
「はるにそんなん言ったらダメ!ちさの晴人なんやから!」
大好きな千彩にそんな風に言われてしまえば、渚は黙るしかない。グッとしかめっ面をして言葉を飲み込んだ渚の頭を撫で、千彩は「いーこ、いーこ」と笑う。もしかしたら…魔性?と、大人三人は思った。
「なぎ、けーちゃんにごめんなさいした?」
「え?あー…まだ」
「ちゃんとごめんなさいしない子は悪い子!」
「あー…恵介、ごめん」
やけに素直じゃないか。と、呆れもするというもので。苦笑いで「もうすんなよー」と答える恵介にコクリと頷き、渚はドサッとソファに腰掛けた。
それを見て、千彩はとても満足げで。まだやり足りないけれど、これはこれで良い薬になったかもしれない。そう思い、晴人は時雨が淹れ直してくれた温かいコーヒーを飲み直した。