Secret Lover's Night 【連載版】
司馬の屋敷を出て家に戻った頃には、もう陽が傾きかけていた。今夜も三人で夕食を、と思い、散歩がてらいつも行くスーパーより少し先のスーパーへと足を延ばした。大きな夕日が、千彩の真っ白な肌を茜色に染めている。


「綺麗な色や」


ボソリと呟く晴人に声を掛けたのは、恵介で。晴人の手を握りながらご機嫌な千彩は、二人の微妙な空気には気付かなかった。まぁ、千彩だけに。

「晴人、今日時間ある?」
「んー?」
「ちーちゃんが寝てからでええんやけど…」

遠慮気味に出された言葉を空を見上げたまま受け取り、晴人はギュッと繋がった手に力を足した。

「飲みに出るか?」
「いやっ、でも、ちーちゃん…」
「別に一晩くらいメーシーんとこに預けてもええわ」

どんな話をしたいのか、言われなくともわかる。そんな話を家でしていて、万が一千彩が目を覚ましたら。そう考えると、外に出る方が安全だ。それに、メーシーの家ならば千彩は快諾してくれる。それには自信があった。

「ちぃ」
「ん?」
「ご飯食べたら、メーシーんとこ行こか」
「ちさ一人で?はるとけーちゃんは?」
「ちょっと仕事の話したいんや。せやから今日はメーシーんとこ泊まってくれへんか?あかんかな?」

優しく尋ねる晴人に、千彩は笑顔で「わかった!」と答えて繋いだ手を大きくを振った。

「マナと一緒に寝れるかなー?」
「どうやろな。愛斗はまだ赤ん坊やからな。マリと三人で寝たらええやん」
「うん!マナがおっきくなったら二人で寝る!」

えへへーと笑う千彩は、夕日を見上げてやはりご機嫌だ。そんな様子に、恵介は唇を噛んで痛む胸を押さえた。

「晴人…」
「後でゆっくり聞くから」
「やっぱり…」
「うだうだ言うな。後で聞く言うとるやろ」

グッと眉根を寄せた晴人に、恵介は黙ってコクリと頷いた。


近くを走る電車を嬉しそうに見つめる千彩。
そんな千彩を、優しげな目で見つめる晴人。


この二人の関係が、ずっとこのまま続いてくれればいいと思う。けれど、胸につかえるものがあるのも事実で。呑み込んで鍵を掛けたとて、どうしても思い出さずにはいられなかった。特に、こんな風に夕日を見た時は。

「何食う?」
「何でも」
「たまにはリクエストせんか」
「んー…じゃあ…」


「「チャーハンとラーメン」」


声が揃ったことに驚く千彩を置いて、「餃子もか?」と晴人は笑う。まるで「何でもお見通しだ」と言いたげな晴人に、恵介は両手を広げて苦笑いをした。
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