Secret Lover's Night 【連載版】
「ごめん、千彩。俺もう無理」


言い終わるか終わらないかのタイミングで千彩を引き剥がし、そのまま覆い被さって唇を奪う。

驚いた千彩が身を硬くするも、崩れかけた理性は勢いを増していて。カラカラと崩れて行くその音を頭の奥で聞きながら、晴人は夢中になってその行為を進めていた。

「はる?」
「あー、うん、ごめん」
「なんでごめん?」
「いやー、うん、ごめん」

唇を離した途端、何だかとても悪いことをした気になって。はふぅっと苦しげに息を吐きながら不思議そうに見上げる千彩に何度か謝ると、パジャマの裾から滑り込ませた手を抜き取り、そっと頭を撫でた。

「ちさ、イヤじゃないよ?」
「ん?んー…そっか」
「もっとしてもいいよ?」
「こらこら」
「ちさ、はる大好き」
「もー。あかんって」

無防備に、ただ純粋に千彩が微笑む。

けれど、今の晴人にとってはそれはまさに蛇の生殺し。そんな表情をされれば、いいと言われてもその先へ進めなくなるのが男という生き物だ。

「寝よかー」
「寝るん?」
「俺は寝るよ?ちぃは?」
「ちさも」

仰向けになった晴人に、ペたりと千彩が身を寄せる。枕にするために腕を差し出すと、ちょんと頭を乗せて、千彩がゆっくりと話し始めた。

「あのね、はる」
「んー?」
「ちさ、はるのこと大好き」
「ん?おぉ」

言葉を続けようとした千彩の口を手で塞ぎ、ゆっくりと首を振る。それに千彩が頷いたことを確認して、晴人は手を離した。

「いつか教えたるから、今は知らんでええよ」
「でも…っ」

体を起こした千彩が、晴人を覗き込む。ぼんやりとそれを見上げながら、なかなか頑固だ…と、沈みかけた思考の端でそんなことを思った。

「千彩、俺のこと好き?」
「好き。大好き」
「じゃあ…キスして?」

腕枕にするはずだった左手で千彩の後頭部を引き寄せ、あと数センチの位置で甘く囁く。瞼を閉じれば、そっと唇が重ねられて。それを甘受しながら、晴人は眠りに就いた。

今はこれでいい…と、腕の中の温もりを手放さぬように、ギュッと愛しさを抱き締めて眠る夜。
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