Secret Lover's Night 【連載版】
結局何度もキスを強請られ、数十分千彩を組み敷いた状態で晴人は欲望と戦っていて。

それもそろそろ限界に近付き、何とかこの状況を打破する手段を…と、思考を巡らせる。

そして、「あっ」とわざとらしく声を上げた。

「ちぃ、大変や!プリン作るんちゃうかった?」
「あっ!」
「よし。キッチン行って作ろ。な?」

苦し紛れの作戦も、相手が千彩ならば通用する。容易にその策に引っ掛かってくれた千彩に感謝をしつつ、燻ぶる欲情を掻き消すように深く息を吐いた。

「はるー、早くプリンー!」
「はいはい。ちょっと待って」

既にキッチンへと移動していた千彩は、冷蔵庫の前で今か今かと待ち構えていて。それをちょいちょいと手招きして呼び寄せ、普段自分が使っている淡いオレンジ色のカフェエプロンを千彩の腰へと巻き付けた。

「はるのは?」
「ん?俺はええよ」
「ちさもエプロン欲しい」
「エプロン?」

巻かれたエプロンの裾をちょんと摘まみ、千彩は晴人を見上げる。珍しいおねだりだ。と、晴人は快くそれを受け入れ、そのエプロンを仕立てた人物の顔を思い浮かべた。

「ほな、恵介に作ってもらおか」
「けーちゃんに?」

晴人が普段使っているエプロンは、恵介のお手製で。服飾科を卒業しただけに、さすがにこういった類いのことを恵介は得意としていた。

「そのエプロンも恵介が作ったもんなんやで」
「けーちゃん凄い!」
「やろ?あいつもたまにはやるんやで」

そう言って笑うと、千彩が目を輝かせた。

その頭をよしよしと撫でながら、晴人はカウンターの携帯へと手を伸ばす。そして、「姫がけーちゃんにエプロン作ってほしいんやとよ」と簡単なメールを打つと、数分も経たないうちに携帯が震え始めた。

「仕事せぇよ、おっさん」
『しとるわ!』
「エプロンな?エプロン」
『型紙あったかなー』
「それくらいお前のデスクの引き出しにあるんちゃうんか?」
『無茶言うなよー。四次元ポケットちゃうぞ』

どうやら何かの作業中らしく、いつもながらに陽気な恵介の声の向こう側からは、ゴソゴソと物音が聞こえてくる。ちゃんと仕事をしてる様子に、晴人はホッと胸を撫で下ろした。
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