私の恋人は布団です。
隆也がちょっとした冒険がてら学校に来ていることも知らずに,延は重いため息を吐きながら帰る用意をしていた。
(帰ったら……まだ居るのかな。あの人……)
思い出すだけで,延には疲労が蓄積されていきそうである。
延はそのまま,どんよりとした顔で席を立った。
「どうしたの?今日はずっと元気ないね」
玄関で,柔らかい声で聞いてくるのは延の親友の日比谷加南子(ひびやかなこ)だった。
加南子は,一言で言うと可愛い女の子だった。
時折,顔に似合わないような辛辣な言葉を口にするが,至って良い友達だった。
「カナ……私がもし,もしね……夢の国の住人みたくなったらどうする?」
「電波系になるってコト?」
加南子はニコニコしながら,キツイ言葉を延に浴びせた。
「うん……。そう……例えば,布団が……」
延が事情を打ち明けようとした時,向こうから2人の男が此方に向かって歩いてくる。
「延ちゃん,今帰り?」
上品に笑う所作は,まるで貴族のそれだった。
延に声を掛けたのは,延よりも一年上の生徒会長,佐上修一(さがみしゅういち)だった。