私の恋人は布団です。
 修一は,延の近所に住んでいる。

 親同士が仲がいいので,交流もある。

 規則正しいストレートヘアーに,眼鏡。

 それでいて,ガリ勉タイプと言った風でもなく,綺麗な面立ちをしていた。

 修一は,昔から優秀で,優しく,人望があった。

 そんな修一を,延は憧れていたし,尊敬もしていた。

 そんな人が,自分を“ちゃん”付けで呼んでくれたり,学校で話しかけたりしてくれることが,延の密かな喜びでもあった。


 いつもの延なら,自分の出来る最大限の笑顔で微笑もうとしただろう。


 しかし,その斜め後ろには,今,恐らく一番会いたくない人物が居た。


「延さん!良かった……会いたかったんですよ」


 その人物は嫌味なくらい長い足を動かし,素早く延の方に向ってくる。


「なっ,何で……ッ!?」



「お友達?」


慌てふためく延に,加南子は悠長に聞いた。


「ち,違う!違うって!」


 延は恥ずかしくて穴があったら入りたいといった心境だった。


「じゃあ,ボーイフレンドかな?」


 修一は含みのある笑顔で言った。


「それも違います!!」


「そんな,ヒドイです……“私にはアナタだけ”って言ってくれたのに……」


(何てコトを口走ってるんだこの男は……!!)
< 11 / 95 >

この作品をシェア

pagetop