私の恋人は布団です。

 アキラの表情は,これまでの緩みきったそれではなかった。
 
 優しくて,複雑な表情。
 
 慈悲。

 哀しみ。

 傍観と,諦め。

 延は,アキラの深い部分に途轍もない深い闇を見たような気分だった。


(……やっぱり,神様なのかな……)


「分かってくれたぁ~?」

 そう言いつつ,延の方に腕を回してくるアキラ。

 延は前言撤回よろしく,その腕を振り払った。


「もう。つれないなぁ……」

「そういう問題じゃありません」

「じゃあ,最後にひとつだけ忠告ね?」

 アキラは,人差し指を立てながら,ちょこんと唇に当てて此方を見た。

「延チャンがとぉっても尊敬している人に,気をつけて?」

「それ,どういう……」


 アキラの言葉を問い詰めようとした瞬間,延は体と心が急速に弛緩していくような感覚を覚えた。


(とっても尊敬している人……?)

 ぼんやりと思考が停滞していく。

「問題は隆也だなぁ……うーん。仕方ない。一肌脱ぐか……」

 延は,どうやら意識を手放したようだった。

 アキラの不穏な言葉も聞くことなく。
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