私の恋人は布団です。
「おはよう、延ちゃん」
「あ、お早うございます」
制服のリボンもつけず、居間のソファに鞄を投げ出しながら、その声に応えた。
そして、いつもの自分の席に座った。
「昨日は良く眠れた?」
「いや、それが物凄く嫌な夢を……」
お茶をグラスに並々とついで、手を止めた。
今、自分が話しているのは声からして母ではない。
男の人の声だ。
父のそれと違い、爽やかで澄んだような若い声。
そう,まるで……。
「……なっ……!?」
延の持っているグラスが割れんばかりに握り締められた。
「嫌な夢?それは,どんな夢だったの?」
客用の豪華な茶碗を片手に,延の先輩である修一は聞く。
箸も,何故か漆塗りの綺麗なものだった。
普段は何の気なしに食べている母の卵焼きさえ修一が箸で持ち上げると,高級料亭の卵焼きと言われても疑問を抱かないほどの上品な所作だった。
(み,見惚れてる場合じゃなくて!!)
「……せ,先輩?どうして……」