私の恋人は布団です。

 憧れの先輩のいきなりの家庭訪問はあっという間で,延と修一は学校までの道を二人で歩いていた。

「延ちゃんのお母さんの料理,相変わらず美味しかったなぁ」


(私は味すら感じませんでした)


「……はぁ。……せめて,いつ来るかくらい教えて下さい」


「ゴメンゴメン。あ,そう言えば……」


「はい?」



「どうして親戚の隆也君は居なかったのかな」



 修一の爽やかな笑顔には邪気が無いものの,全てを見透かすような声色だった。


「そ,それ……は……ちょっと,寝坊して……る?とか……」


「お母さんも知らないみたいだったけど……」


「え?あ,あぁ……それは……」


「嘘吐くときに語尾が上がる癖,直ってないみたいだね」


 今まで,この尊敬してやまない兄の様な男を怖いと思ったことがあろうか。


(いや,ない……!)


 延の脳内の独り反語はいっそ清々しかった。
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