私の恋人は布団です。
「あの子,前も来てたよねぇ」
「近くで見ると本当に格好良い……」
延の斜めや後ろの席から女子の色めきたった話し声が聞こえる。
しかし,それは遠くの方で聞こえている様に思えた。
「……羽河,隆也です」
ソワソワしながら,一点を見つめて隆也は微笑んだ。
視線の先には,勿論延が居る訳だが,肝心の相手は半ば放心状態である。
隆也の暑苦しい視線にさえ気付かないほど,延は驚いていた。
地味な学生服をすっきりと着こなす長身と,嫌味なくらい整った顔。
延は,その顔を忘れたくても忘れられない事情がある。
「羽河ァ?オイ,同じ名字だぞ?」
「何?デキてンの?」
無責任な会話も,今の延には届かない。
(どういう事なの……っ?)