私の恋人は布団です。

 それまでお喋りに夢中だった女生徒達が静まる。

 男子生徒も隆也の発言によって動作を封じられている。

 教室は水を打ったようにシィンと静まり返った。

 誰かの箸が落ち,プラスチック特有のカランと床を滑る乾いた音が響いた。

 そして,堰を切ったようにヒソヒソ声のボルテージは上がり,ヒュウっという口笛が鳴った。

 生徒の視線が一気に延に集中する。



「こ,こんな処で何てこと言ってるの!!」


 怒り心頭に発すると言った表情で,延は隆也を睨んだ。


「済みません!……何処でなら良いですか!?」


「そういう問題じゃないの!!」


「ご,強引じゃないからですかっ!?」


(最近,大人しくなってきたと思ってたのに……ちょっとは優しくしようとか思った私って一体……と言うか強引とか強引じゃないとか意味不明だわ……!!)


「羽河,返事してやれよ~」

 冷やかしの言葉に,益々延の怒りは沸点に向う。

「延。……とりあえず,場所を変えたら?」

 友人の言葉に,延はやっと自分の状況を把握した。


「そ,そうね。ありがと」


 加南子に目配せして,延は隆也を教室から引っ張り出した。
< 56 / 95 >

この作品をシェア

pagetop