私の恋人は布団です。
延は,屋上に向う階段の踊り場まで隆也の手を引いて連れて来た。
「二人の時の方が良かったですか?」
隆也は繋いだ手を意識しながらおずおずと切り出した。
「だから,そういう問題じゃなくて!」
慌てて繋がっていた手を振り払って,隆也を睨み上げた。
隆也は残念そうに,掌を眺める。
「ご,ごめんなさい延さん!」
まだ柔らかい感触の残る手で,先刻まで重ねられていた延の手を取った。
「ちょ……っ」
「約束破って済みません!でも,俺,強引にしないと駄目なんです!お願いします!俺とデートして下さい!!」
隆也の手は,冷たく震えていた。
(何なのよ,もう……全くもって意味がわからないんだけど……)
「やっぱり……駄目,ですか?」
飼い主に捨てられる前の子犬の様な眼差しに延は思わず後ずさる。
(反則!レッドカード!無理!誰かコイツを退場させて!)
延の目の前には,見える筈の無いしょげた犬耳が隆也の頭部にある。
(此れがワザとだったら一発殴るわ……うぅん,十発は確実ね……)
「……テストが終わったらね……」
その後,隆也は感極まって延の両手を取ろうとして思い切り突き飛ばされた。