シャクジの森で〜番外編〜
―――手?

・・・あぁ・・しまったな―――


思考から戻され気付けば、シンディがハンカチが巻かれた手を取り、しげしげと見つめていた。

隠していたつもりだったが、無意識にも出していたか・・・。



「これは―――先程粗相をして少しばかり切ってしまってね。いや、大したことはないんだ。シンディ、心配無いよ」

「ううん、ダメよ。お兄様、これはすぐにでも医務室に行かなくちゃ!・・侍従長、ありがとう。楽しかったわ。勝負の途中で終わってごめんなさい」

「いえいえ、勝負は次回に致しましょう。この私、シンディ様の御為であれば、何時でも何処でも馳せ参ず所存で御座います。ええ、それはご自宅まででも、必ず。是非、今後ともご所望下さい―――どうか、お気を付けてお帰りを」



髭を震わせ心底残念そうに言い、いつまでも手を振り続ける侍従長に別れを告げ、シンディは私の手首をしっかり掴んだまま政務塔に向かって行く。

正直言えば、医務室に寄る時間など実に勿体無く感じるのだが。



「シンディ、すまないが」

「ダメ!行くったら行くの!」



少しでも否定的な言葉を出せば、此方を振り返ってジロッと睨み、ぴしゃりと言う。

今までの人生で、こんな状態の女性には逆らわない方が身のためと学んだが、相手はシンディだ。

この程度の怪我など、放っておけば自然に治る。

それよりも、処理しなければならない事が山になっているのだ。



手首をしっかりと掴む、白く小さな手を見る。

このか細い指など、少し力を加えれば簡単に振り解けるが・・・。


もうっ、お兄様ったら、自分のことには本当に無頓着なんだから!などと、ぷんぷんと怒りながら私の手を引きイソイソと先を歩くシンディ。

その姿が、ふ・・とサリーと重なり、我が目を疑った。

何故だろう、姿形も、髪の色も、全く違うというのに―――



“アンタこそ、もっと自分の身を大切にしなきゃダメだろ?”



これは、先程に噴水で叱られた言葉のうちのひとつ、か―――・・・仕方ないな、少し乱暴だが。


医務室前に来たところで体にグッと力を込めて歩みをピタリと止め、掴まれている腕を、くいっと引いた。

小さな叫び声を上げてバランスを崩したシンディの身体をふんわりと受け止め、仰向けになり驚き見開く瞳に微笑みながら細い腕をササッと撫でて確認する。

痛めていないといいが。



「すまないね、シンディ。少しだけ、待ってくれないか?―――あぁ、そこの、君―――ちょっといいかい?」



はい、何で御座いましょう。

と頭を下げる高官に手短に指示を伝える。

まずは、エミリーの馬車の支度をさせねば、彼女が困ってしまう。
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