シャクジの森で〜番外編〜
その後に、私の馬車だ。

これだけ指示をしておけば、あとは自分次第。

本日起こったこと。一つ一つ確認しながら、考えを纏め報告書に記載していく。

これが一番の大仕事であり厄介なんだが、アラン、君が帰るまでに、必ず、終えてみせるよ。


腕の中にいる可愛い妹をそっと放し、乱れていた髪飾りをつけ直す。



「・・・待たせたね。医務室に連れて行ってくれるかい?」

「んもうっ、お兄様ったら。さっきは本当にびっくりしたんだから!」



止まる前に、一言言ってほしいわ!

唇を尖らせぷぅと膨れた頬を元に戻し、シンディは医務室の扉を開けた。

と、書類の束を持ったリードがこちらを振り返り見る。

顔を見るのは本日3回目だな、彼が嫌そうに顔を歪めたのは、気のせいだと思っておこう。

会えばロクなことが無いのは、お互い様だ。



「治療をしてもらいに来たの。あなたは助手?あの、医官のフランクさんは?」



シンディがキョロキョロしながらも話し掛けると、彼は無愛想なまま奥の治療室を指差した。



「あ、フランクさんなら、今は奥で片付けを―――」

「はいはい。ここにおります。何処をどうされましたか―――おや、これはこれはお二人して・・まさか――?」



シンディを見るフランクの眼鏡がギラリと光る。

もともと医者が苦手な上に見慣れない眼鏡が怖いのか、シンディはツツツと私に隠れるように寄ってきた。

そんな身体を庇いつつ、急いで右手を上げてひらひらと振って見せる。



「フランク、私だ。忙しいところすまないね。少し掌を切ったんだ。手早く、頼むよ」

「そうでしたか、失礼しました。お見せ下さい―――・・・貴方様が。珍しいこともあるものですね。これは手短では終わりませんよ」

「フランク、脅しはやめてくれ。これくらい消毒のみで十分だろう?」

「何を仰います。どうぞ此方へ―――リード、準備をお願いします」



こういうものは、きっちり治すべきなのです。

眼鏡を光らせ、穏やかながらも有無を言わせぬ迫力のあるフランク。

流石、アランを叱る数少ない人物なだけはある。

失敗したな、やはり仕事を終えてからにすべきだった。

これは、かなりの時間がかかるのだろう。



「シンディ、これを持って、ここから動かずに待ってるんだ。いいね?」

「大丈夫ですよ、お一人には致しません。準備がすみ次第リードをこちらにおきます。あれでもお役に立つでしょう」



リード・・・フランク、それはますます心配なのだが。

そう思えど、治療室には入れる訳にもいかず、仕方なく口を噤む。



「あ・・お兄様?頑張って」



何をどう頑張れというのか、こんなときにも面白いことを言う。

手渡したサリーのハンカチを握り締め、今にも泣きそうに顔を歪めて手を振るシンディに、大丈夫だから、と笑顔を向けておく。


全く。

今日は、本当に、思い通りに行かない日だ・・・。
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